まだ元気だからこそ考えたい。「元気なうちの住み替え」という選択

まだ元気だからこそ考えたい。「元気なうちの住み替え」という選択

「まだ元気だから、住み替えなんて考えなくてもいい」

そう思う方は多いと思います。

実際、高齢になったからといって、すぐに住み替える必要があるわけではありません。

国土交通省の資料でも、高齢者の9割以上は在宅で暮らし、要支援・要介護の認定を受けている方でも約8割が在宅です。

高齢者の多くは、住み慣れた地域や自宅で暮らし続けています。

国土交通省資料「高齢者の住まいに関する現状と施策の動向」

出典:国土交通省「高齢者の住まいに関する現状と施策の動向」(2022年2月22日)

ですから私は、

「高齢になったら住み替えた方がいい」

とは考えていません。

戸建てよりマンションの方がよいとも、早く家を売った方がよいとも思いません。

私が考えたいのは、

その方が残りの人生を、その人らしく歩むために、今の住まいが本当に合っているのか

ということです。

住み替えた方がよい人もいます。今の家に住み続けた方がよい人もいます。

少しリフォームするだけで、ずっと暮らしやすくなる人もいます。

私の仕事は、住み替えを勧めることではなく、その人にとって一番よい住まい方を一緒に考えることだと思っています。

目次

「まだ元気だから」は、考えなくてよい理由ではない

元気なうちの住み替えという言葉を聞くと、

「まだそんな年齢ではない」「介護が必要になってから考えればいい」

と思うかもしれません。

ただ、私は長く高齢者の住まいに関わる中で、

元気なうちだからこそできることがある

と感じています。

自分で住まいを見に行く。実際に歩いてみる。「ここは好き」「ここは嫌だ」と言える。

家族と相談できる。費用を比較できる。自分で契約できる。

そして何より、

自分のこれからを、自分で決められる。

これはとても大切なことだと思っています。

高齢になって体力が少し落ちてきたとしても、

「まだ自分の人生は、自分で切り拓くことができる」

と思えることは、その人のエネルギーになります。

私は、

「自分で決めることができる」という人間の尊厳を、自ら手放さないでほしい

と思っています。

家は同じでも、「自分と家とのバランス」は変わっていく

住み替えを考えるきっかけは、

「今の家が悪くなったから」

とは限りません。

家は何十年も前と同じでも、暮らす人の人生は変わっていきます。

子どもが独立した。夫婦二人だった暮らしが、一人暮らしになった。

2階はほとんど使わなくなった。以前は何ともなかった階段が負担になってきた。

庭や植栽の手入れが大変になってきた。自分でできなくなり、業者へお願いすると費用もかかる。

屋根や外壁などの修繕費も気になる。固定資産税など、家を持ち続ける負担もある。

最近では、防犯への不安を口にされる方もいます。テレビで強盗事件などを見ると、

「戸締まりをもっとしっかりしなければ」

「毎朝、毎晩、雨戸を開け閉めしなければ」

と思う。

けれど、その作業自体が少しずつ負担になってくる。

山手の住宅地では、さらに問題があります。比較的大きな敷地に戸建てが建ち、庭もある。

若いころは車があれば不便を感じなかった。ところが免許を返納すると、買い物や通院のためにバスを使わなければならない。

そのバス停まで行くにも坂道がある。

本人の日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living)が少しずつ低下してくると、徒歩での移動そのものが危険になることもあります。

つまり、

住み替えを考えるきっかけは、家が悪くなったからではなく、今の自分と家とのバランスが変わってきたから

なのだと思います。

配偶者を亡くしたからといって、すぐ住み替えられるわけではない

住み替えの相談を考えるとき、

「夫や妻を亡くしたことがきっかけになるのでは」

と思われるかもしれません。

私の実務では、必ずしもそうではありません。

配偶者を亡くした直後は、むしろその家に住み続けたいという気持ちの方が強い場合があります。

以前、

「三回忌が終わるまでは、夫と暮らしたこの家で過ごしたい」

と話していた方がいました。家は単なる建物ではありません。

夫婦で過ごした時間。子どもを育てた記憶。

家族で囲んだ食卓。庭に植えた木。

そうしたものが積み重なっています。

それを、配偶者を亡くしたからといって、すぐに整理できるものではありません。

私は、

住み替えには、身体やお金だけではなく、心の準備が整う時間も必要

だと思っています。

元気なうちに動く一番の意味は、「自分で決められること」

高齢者の住み替えの多くは、本人が積極的に望んでというより、

「そうせざるを得なくなった」

というケースです。

家族だけでは介護を支えきれない。認知症が進んだ。

一人暮らしが難しくなった。病院を退院しなければならない。

そうした状況で、本人の希望より先に「必要性」が住み替えを決めることがあります。

もちろん、それが悪いということではありません。必要な住み替えです。

ただ、まだ元気で、自分で考え、選ぶことができるのであれば、

自分自身が主役になって、これからの住まいを選ぶ

ことができます。

どの地域に住みたいか。どんな人たちと暮らしたいか。

自炊を続けたいか。食事は用意してほしいか。

趣味を続けたいか。友人とのつながりを残したいか。

今までの自宅をどうしたいか。

そうしたことを、一つずつ自分で決められる。

これは単に住宅を選ぶということではありません。

自分の残りの人生を、どう生きるかを決めること

だと私は思っています。

住み替えない方がよい人もいます

一方で、

「元気なうちに住み替えましょう」

と誰にでも勧めたいわけではありません。

家族が近くに住んでいる。何かあればすぐ顔を出してくれる。

孫の顔を日常的に見ることができる。長年の友人がいる。

地域とのつながりが強い。近所の人が自然に見守ってくれている。

今の家に大きな不便もない。

こういう人が、わざわざ大きなお金をかけて別の場所へ移る必要があるでしょうか。

私は、そうは思いません。

場合によっては、

手すりを付ける。段差をなくす。

1階だけで生活できるようにする。水回りを改修する。

そうしたリフォームだけで、その人の暮らしがずっと良くなることもあります。

住み慣れた街、住み慣れた家で最後まで暮らせることが、その人の幸せを一番大きくするのであれば、それが一番よい選択です。

住み替えること自体を、目的にしてはいけないと思っています。

一人暮らしの女性が、少しずつ「これから」を選んだケース

以前、身元保証会社からのご紹介で、阪神間の都市部にある駅近のマンションで一人暮らしをされていた女性の住み替えをお手伝いしたことがあります。

ご主人を亡くされてから長い時間が経っていましたが、まだ要支援でも要介護でもなく、とても元気な方でした。

趣味もあり、友人もいて、買い物にも便利な場所です。

一見すると、

「なぜ住み替える必要があるのだろう」

と思うような環境でした。

ただ、ご主人を亡くしてから一人で暮らす時間が長くなっていました。

街はにぎやかです。人も多い。お店もある。

でも、そのにぎやかさの中にいるからこそ、

自分が一人であることを強く感じてしまう

こともあります。

この方も、

「一人で食べる食事が寂しい」

という思いを持っていました。

最初から、

「マンションを売ります」

と決めていたわけではありません。

まずは、

安心して暮らせること。食事を自分で毎回作らなくてもよいこと。

適度に人とのつながりがあること。自分の自由もあること。

そういう住まいを、一緒に探しました。

候補を見て、話をして、また考える。

一度に多くのことを決めるのではなく、

一つずつ確かめながら進みました。

そして、

「ここなら暮らせそうだ」

と思える場所が見つかりました。

それでも、すぐに自宅売却という話にはなりませんでした。

新しい環境に本当に自分が馴染めるのか。

そこを本人が実感するための時間が必要だったからです。

新しい暮らしに馴染んでから、自宅を売ってもいい

私は、住み替えと自宅売却を必ず同時に決める必要はないと思っています。

もちろん、人によります。

家族がしっかり支えてくれる人。経済的な余裕が十分にある人。

新しい環境に移ることへの抵抗が少ない人。

こうした場合は、住み替えと売却を並行して進めることもできます。

一方で、

頼れる人が少ない。長年の家を手放すことに不安がある。

新しい場所に馴染めるか自信がない。

そういう人に、

「先に売りましょう」

と進める必要はありません。

私は、

その人が安心して次の生活へ進める順番

を大切にしたいと思っています。

一般的な不動産取引では、売却と住み替えを効率よく同時に進めることが合理的な場合もあります。

でも、高齢者の住み替えでは、

「効率」より「本人が納得して進められるか」

の方が大切な場合があります。

自宅を売ることは、思い出を捨てることではない

先ほどの女性には、ご主人との思い出が詰まったマンションのほかに、少し離れた場所に土地もありました。

ご主人がキャンプを楽しむために購入した土地でした。

ご主人が亡くなった後は、そこへ行くこともなくなりました。

本人は、

「身寄りもないので、できるだけ身の回りを整理しておきたい」

という気持ちを持っていました。

私もその土地の売却を試みました。登記を確認し、近隣の所有者なども調べました。

しかし、結局買い手は見つかりませんでした。それなら、それでいい。

無理にすべてを整理しなくてもいい。その方にとって必要だったのは、

全部を処分することではなく、整理すべきものと、整理しなくてもよいものを見分けること

だったのだと思います。

マンションについても、最初はご主人との思い出があり、簡単に売れるものではありませんでした。

私はあるとき、

「ご主人も、ほかでもない奥様のために残したこのマンションを、奥様自身のこれからの人生を豊かにするために使ってほしいと思っているのではないでしょうか」

というような話をしました。少し背中を押した面はあったと思います。

その後、ご本人はマンションを売却されました。過去を捨てたわけではありません。

むしろ、

これまでご夫婦で築いてきた資産を、自分のこれからの人生に使う

という選択をされたのだと思っています。

「住み替えるか」ではなく、「どうすれば一番その人らしく生きられるか」

住まいに関わる事業者には、それぞれ得意分野があります。

不動産会社なら不動産売却。リフォーム会社なら改修。

高齢者住宅の事業者なら入居。それぞれの専門性があります。

そして、それぞれの商売につながる方向へ話が進みやすいのは自然なことだと思います。

私も事業としてこの仕事をしています。

ボランティアではありません。

ただ、それでも私は、

最初から答えを「住み替え」に決めて相談を受けたくない

と思っています。

今の家に住み続けた方がよければ、そう提案する。

リフォームした方がよければ、それを勧める。

住み替えた方が、その人の人生がもっと豊かになると思えば、住み替えを提案する。

必要なら不動産を売る。まだ売らない方がよければ、売らない。

私は、

その人の残りの人生にとって、何が一番よいのかをフラットに考える

ことを大切にしています。

元気なうちの住み替えが「成功した」と言えるとき

では、

「元気なうちの住み替えが成功した」

とは、どんな状態でしょうか。

私は、

良いマンションへ移ったことでも、高級な高齢者住宅へ入ったことでも、

高く家を売れたことでもないと思っています。私が考える成功は、

限りある人生、少しずつ衰えていく限られたエネルギーの中で、その方ができるだけ長く、その人らしく輝き続けられる環境をつくれたこと。

です。

その答えが、住み替えでなくても構いません。これまでの自宅をリフォームして暮らす。

家族の近くへ移る。便利なマンションへ移る。

高齢者住宅へ移る。今の家にそのまま住み続ける。

どの答えでもいい。

その人が、自分の意思で、自分に合った暮らしを選べたこと。

それが一番大切だと思っています。

私は、

「住み替え」を提案したいのではなく、その人らしく生きられる住まいを一緒に考えたい。

そう思っています。

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事例について

プライバシー保護のため、掲載している事例では年齢・時期・地域・家族構成など一部の情報を変更する場合があります。事例の趣旨、相談内容、支援・判断の経緯については、実際の相談経験をもとにしています。


住み替えると決めていない段階でも、ご相談いただけます

「この家に住み続けて大丈夫だろうか」

「まだ元気だけれど、今のうちに考えておいた方がいいだろうか」

「売る、住み替える、リフォームする。どれが自分に合っているのか分からない」

そうした段階からでも構いません。

今の暮らし。

家族との関係。

これから必要になるお金。

自宅をどうするか。

そして、ご本人がこれからどんな人生を送りたいのか。

そこから一緒に整理していきます。

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