高齢の親の住み替え、いつ考える?老人ホームを探す前に家族で考えたいこと

高齢の親の住み替えを考える時期と、老人ホームを探す前に家族で整理したいこと

「そろそろ親も老人ホームを考えた方がいいでしょうか」

これまで、ご高齢の方やそのご家族から何度も聞いてきた言葉です。

認知症が少し進んできた。
一人暮らしが心配になってきた。
食事がきちんと取れているのか分からない。
離れて暮らす親のことが気になって、仕事をしていても落ち着かない。

こうしたことが重なってくると、ご家族はインターネットで老人ホームを探し始めます。

ただ、私は相談を受けたとき、すぐに老人ホームを探すことからは始めません。

最初に考えたいのは、

「この方は、本当に今、住み替える必要があるのだろうか」

ということだからです。

私は長く、高齢者の住まいや介護、不動産に関わる仕事をしてきました。

その経験から感じるのは、老人ホームに入居される方の多くが、最初から「老人ホームで暮らしたい」と考えているわけではない、ということです。

できるのであれば、住み慣れた家で暮らしたい。
それが本音であることは少なくありません。

だからこそ、老人ホームを探す前に、本人の暮らしと家族の状況を一度整理することが大切だと私は考えています。

この記事は、親の様子が気になり始め、「そろそろ老人ホームを探した方がいいのだろうか」と迷っているご家族に向けて書いています。

この記事でお伝えしたいこと

  • 住み替えを考え始める目安は、要介護度だけでは決まりません。「本人のサイン」と「家族の限界のサイン」の両方で見ます。
  • サインが出た=すぐ老人ホーム、ではありません。家族の役割を組み替えて、自宅で暮らし続けることが答えの場合もあります。
  • 認知症がある場合は、本人が自分の意思を伝えられるうちに話し始めておくことが大切です。
  • 住み替え先・家族の負担・必要な資金・その後の自宅は、一つの計画として整理します。
目次

要介護2なら老人ホーム?要介護度だけで住み替えを決めない理由

私が初めてご家族から相談を受けるときは、まず基本的な情報を伺います。

年齢、要介護度、認知症の有無。

さらに、

食事は自分で取れているか。
立ったり座ったりできるか。
入浴や排泄はどうか。
薬は自分で管理できているか。

といったADL(日常生活動作)も確認します。

しかし、それだけではありません。

私が同じくらい重視しているのが、家族の介護力と経済的な条件です。

近くに子どもがいるのか。
実際に誰が親を支えているのか。
その人には時間や体力が残っているのか。
家族関係はどうなのか。
毎月どの程度まで住居費・介護費を負担できるのか。

こうしたことを一つずつ確認し、

本人の状態 × 家族の介護力 × 経済条件

から、現実的な選択肢を考えていきます。

「要介護2だから老人ホーム」

というような単純な判断ではありません。

家族の介護力は「意思×能力×関係性」で見る

「家族がいる」ことと「介護力がある」ことは違います。

私は家族の介護力を、

意思 × 能力 × 関係性

で見るようにしています。

介護する「意思」があるか

親を支えたいという気持ちがあるかどうかです。

介護を続ける「能力」があるか

時間、体力、経済力、距離、生活環境など、実際に支える余力があるかどうかです。

介護を続けられる「関係性」があるか

親子、夫婦、きょうだいの関係が、その介護を続けられる状態にあるかどうかです。

たとえば、娘さんが2人いる家庭でも、実際には近くに住む一人の娘さんだけに介護が集中していることがあります。

遠方に住むもう一人の娘さんには、その負担がなかなか見えません。

「そんなに大変なの?」

と感じている遠方の娘さんと、

毎日のように親から電話があり、食事を作り、病院に連れて行き、生活上のトラブルにも対応している近くの娘さん。

同じ親を持つ姉妹であっても、見えている世界がまったく違うことがあります。

そこから、きょうだいの関係まで悪くなることがあります。

さらに、今の40代、50代、60代は、自分の子どもがまだ小学生や中学生であることもあります。

子育て、仕事、そして親の介護。

これが同じ時期に重なります。

本人が「親だから私が見なければ」と頑張っていても、現実にはかなり無理をしている場合があります。

親戚から、

「娘なのだから面倒を見るのが当然でしょう」

と期待され、それが重荷になっている人にも会ってきました。

だから私は、家族の人数だけを見て「介護できる家族がいる」とは判断しません。

「家族がいる」ことと、「介護力がある」ことは同じではありません。

親の住み替えを考え始めるサインは?本人側と家族側で見る

では、どのような状態になったら住み替えを考え始めればいいのでしょうか。

これは医学的な診断基準ではありません。

あくまで、これまで多くの高齢者の暮らしを見てきた中で、私自身が「そろそろ一度、生活全体を見直した方がいい」と感じるサインです。

私はこのサインを、本人側と家族側の両方から見るようにしています。

高齢の親の住み替えを考える本人側と家族側の黄色信号・赤信号を整理した図

本人側の黄色信号:暮らし方を家族で確認し始める時期

たとえば、

  • 同じ話を何度もするようになった
  • 以前よりぼんやりすることが増えた
  • 食事に無頓着になった
  • 暑いのにエアコンを使わない
  • 一人暮らしの孤独感が強くなっている
  • 火の扱いに不安を感じるようになった

といったことです。

私はこれを、いわば黄色信号だと考えています。

黄色信号だから、すぐ老人ホームという意味ではありません。

「これまでと同じ暮らし方を、このまま続けられるのか」

を家族で確認し始める時期です。

本人側の赤信号:専門職を交えて早めに見直す時期

一方で、もう少し切迫したサインもあります。

たとえば、

  • ケアマネジャーから「そろそろ在宅生活が難しい」と言われる
  • 同じ商品が家の中にいくつもある
  • 自分で薬を管理できない
  • 夜間に一人で外へ出て、近所の方から連絡が来る
  • 家族やヘルパーに手を上げる

といった状態です。

火の不始末も、繰り返すようであれば、私は赤信号に近いと考えます。

この段階では、ご本人と家族だけで抱えず、ケアマネジャーなど専門職を交えながら、在宅生活を続けられるのかを早急に見直す必要があります。

厚生労働省「認知症の人の介護者への支援」も参考になります。

ただし、ここでも「赤信号=老人ホーム」と決めつけるわけではありません。

介護保険サービスを増やす。
見守りを入れる。
家族の役割を変える。

それで暮らし続けられる人もいます。

赤信号=老人ホーム入居決定ではありません。

家族側のサイン:支える側の限界も判断材料になる

住み替えを考えるきっかけは、本人の変化だけではありません。

先ほど、家族の介護力は「意思×能力×関係性」で見ると書きました。

これをサインとして整理すると、次のようになります。

要注意のサイン

  • 一人の娘さん・息子さんに介護が集中している
  • 遠方のきょうだいとの間に温度差がある
  • 子育て・仕事・親の介護が同じ時期に重なっている
  • 親戚から役割を期待され、それを背負っている
  • 老老介護で、支える側にも余力が少ない

こうした状態が続くと、本人に必要な支援が、少しずつ届かなくなっていくことがあります。

限界が近いサイン

  • 近くで支えている家族の負担感が強くなっている
  • 介護をめぐって、家族の間に対立が生まれている
  • 介護を続ける意思や能力が、限界に近づいている
  • 家族を介護の負担から解放する支援が必要になっている

本人がまだ自宅で暮らせる状態でも、支える家族が限界に近ければ、それは暮らし全体を見直すサインです。

ただし、ここでも「家族が限界=老人ホーム」ではありません。

介護サービスを増やす、家族の役割を組み替えるなど、負担を分け合う方法から考えます。

次にご紹介するのは、まさにそうしたご家族のケースです。

【事例】「老人ホームを探して」と相談されて、探さなかったケース

以前、地域包括支援センターから、

「そろそろ老人ホームを探した方がよいのではないか」

というご相談を受けたことがあります。

80代のお母様と、近くに暮らす2人の娘さんのご家族でした。

お母様には軽い認知症がありましたが、まだ要支援で、日常生活の多くは自分でできていました。

妹さんが食事を作るなど、お母様を日常的に支えていました。

ただ、頻繁に顔を合わせる分、お互いにストレスもたまり、親子関係が少しギスギスし始めていました。

一方、お姉さんは仕事をしていて、直接介護する時間はあまりありませんでした。

1時間ほど3人のお話を聞いて、私は、

「本当に今、老人ホームに入る必要があるのだろうか」

と思いました。

妹さんには、お母様を支えたいという意思がありました。

ただ、それを続けるための経済的な余力など、能力の部分が足りていなかった。

一方、お姉さんには、直接介護する時間は少なくても、経済面で妹さんを支えられる力がありました。

そこで、

「お姉さんが少し経済的な支援をすることで、妹さんの負担を軽くできませんか」

という話になりました。

最終的に、そのご家族は老人ホームを選びませんでした。

家族の役割を少し組み替えて、もうしばらく自宅で暮らしていくことになりました。

老人ホームを紹介する私にとっては、「仕事にならなかった」と言えば、その通りです。

でも私は、それでよかったと思っています。

住み替えないことが、その家族にとって一番良い判断なら、それも答えだからです。

認知症の親は「まだ暮らせる」うちに話し始めたい理由

一方、認知症については、少し早めに考えておいた方がよい場合があります。

身体的にはまだ元気。
要支援程度で、一人でもなんとか暮らせている。
しかし認知症が徐々に進んでいる。

こういうケースです。

認知症が進むと、環境を変えることへの抵抗が強くなる場合があります。

本人の気持ちを確認しながら、

「どんなところなら暮らせそうか」
「今の地域とのつながりを残せるか」

と一緒に考えること自体が難しくなることもあります。

厚生労働省の「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」でも、認知症の人ができる限り本人自身の意思に基づいて日常生活や社会生活を送れるよう、意思決定を支援することが基本とされています。

だからこそ私は、

「まだ暮らせるから、まだ考えなくていい」

とは必ずしも考えません。

本人が自分の意思を伝えられるうちに、一緒に考えておく。

それも本人の意思を大切にする一つの方法だと思います。

【振り返り】住まい選びで「どこまで先を見るか」は人によって違う

住まいを選ぶとき、

「将来もっと介護が必要になった場合まで考えましょう」

と言われることがあります。

これは一面では正しいと思います。

しかし、私はすべての人に同じようには考えません。

まだ元気な70代の方に、

「将来寝たきりになるかもしれないから」

という理由だけで、今の自由や楽しみを大きく制限する住まいを勧めることはありません。

逆に、すでに要介護度が高く、病気も進行している方であれば、半年後、1年後に必要になる介護や医療まで考えて住まいを選びます。

これは私自身、うまく判断できなかった経験があります。

ある高齢の男性について、当時はまだ外出もできたため、「自由に出入りできること」を重視して住まいを選びました。

ところがその後、病状や認知面の変化があり、再び住み替えが必要になりました。

今振り返ると、あの方については、もう少し半年後、1年後を見ながら住まいを選ぶべきだったと思っています。

私はいつも正しい判断ができてきたわけではありません。

こうした経験があるからこそ、

「その人について、どこまで先を見るべきなのか」

を以前より慎重に考えるようになりました。

介護をプロに任せた方が、家族でいられることもある

もう一つ、私はとても大切だと思っていることがあります。

「家族なのだから、家族が介護するべきだ」

と考えすぎないことです。

高齢の夫婦では、介護する妻や夫自身も、自分の生活を維持するだけで精いっぱいになっていることがあります。

もともとの夫婦関係が決して良好ではなかった方もいます。

親子でも同じです。

何十年も離れて暮らし、お互いの日常をほとんど知らない。
長年、親子関係がうまくいっていない。

そうした家族に対して、「親子なのだから自宅で介護しましょう」と勧めても、うまくいかない場合があります。

介護はプロに任せた方がよいことがあります。

すると、

娘さんは「介護する人」から、もう一度「娘」に戻れる。
妻は「夫の世話をする人」だけではなくなる。

親子で会ったとき、

「薬を飲んだ?」
「ちゃんと食べた?」

という話だけではなく、

「今日は天気がいいね」
「ありがとう」

と話せるようになる。

私は、そんな変化も大切な住み替えの成果だと思っています。

国が進める「地域包括ケア」と、私が現場で感じてきたこと

国は「地域包括ケアシステム」という考え方を進めています。

高齢になり、重い介護が必要になっても、できる限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けられるように、住まい、医療、介護、予防、生活支援を一体として考えるものです。

私は制度をつくる側の人間ではありません。

ただ、長年、ご高齢の方とそのご家族の相談を受けてきて、現場からたどり着いた考え方は、この方向とかなり重なっています。

高齢者の暮らしの問題は、介護だけでは解決しません。

住まいがあります。
家族があります。
お金があります。
地域とのつながりがあります。
そして、その人がこれまで生きてきた人生があります。

だから私は、老人ホームだけを切り離して考えず、

「これからこの人と家族がどう暮らすのか」

から考えたいと思っています。

住み替えを決める前に、家族で整理したい4つのこと

私が住み替えの相談で大切にしているのは、次の4つを一つの計画として整理することです。

01 ご本人の暮らし

本人はどのように暮らしたいのか。
今の暮らしで困っていることは何か。
安全面や孤独感、認知症の進行はどうか。

02 ご家族の負担

誰が支えているのか。
その支えは続けられるのか。
介護が一人に集中していないか。
家族関係に無理が出ていないか。

03 必要な資金

在宅を続ける場合、住み替える場合、それぞれにどの程度の資金が必要か。
無理のない選択肢はどれか。

04 その後の自宅

もし住み替える場合、自宅を残すのか、売るのか、貸すのか。
それをいつ、どの順番で考えるのか。

私は不動産の仕事もしてきたので、この「その後の自宅」が後回しになり、あとで困るご家族を何度も見てきました。

たとえば、

  • 空き家のまま管理が行き届かなくなり、傷みや近隣への影響が心配になる
  • 固定資産税や維持費がかかり続ける
  • 認知症が進み、本人の判断能力が低下すると、自宅の売却や賃貸の契約が本人だけではできなくなり、成年後見制度の利用が必要になる場合がある
  • 売却の時期によって、税金の扱いが変わる場合がある

といったことです。

特に認知症がある場合、自宅をどうするかも「本人が自分の意思を伝えられるうちに」話し合っておきたいテーマです。

また、自宅を売ったお金を住み替え後の費用に充てるのか、自宅は残して別の資金でまかなうのかによって、選べる住まいも変わります。

だから「03 必要な資金」と「04 その後の自宅」は、切り離さずに考える必要があります。

この4つは別々ではなく、つながっています。

住み替え先だけでなく、必要な資金やその後の自宅まで含めた支援内容は、「親の住み替えと自宅の整理」でもご案内しています。

だから私は、住み替えだけ、自宅売却だけを切り離して考えるのではなく、全体を一つの計画として整理したいと思っています。

まず今週できる3つのこと

住み替えを考え始めたからといって、すぐに何かを決める必要はありません。

まずは、次の3つから始めてみてください。

1. 親と家族のサインを確認する

この記事の図解を見ながら、本人側と家族側の両方で、当てはまるものがあるかを確認してみてください。

本人だけでなく、支えている家族の状態も見るのがポイントです。

2. きょうだいや家族に、最近の親の様子を共有する

近くで支えている人と、離れて暮らしている人では、見えている世界が違います。

「最近こんなことがあった」と具体的な出来事を伝えるだけでも、家族の温度差は少し縮まります。

3. 親に「これからどう暮らしたいか」を聞いてみる

いきなり「老人ホーム」という言葉を出す必要はありません。

「最近、困っていることはない?」
「これから、どんなふうに暮らしたい?」

といった問いかけから始めてみてください。

本人の本音を知ることが、家族で考えるときの出発点になります。

良い住み替えとは何か

私は、「良い老人ホームに入れたら成功」とは考えていません。

反対に、自宅で最後まで暮らせたら必ず成功だとも思いません。

私が考える良い住み替えは、

そのことで本人の笑顔が増え、家族の安心や笑顔も増えること

です。

介護が必要になった本人の中にも、

「家族に迷惑をかけたくない」

という気持ちがあります。

一方、家族も、

「できる限り自分たちで見なければ」

と思っています。

その双方が無理をして、家族全員が疲れてしまうことがあります。

そんなとき、介護の部分はプロに任せてもいい。

そして、限られた家族の時間を、

介護する時間ではなく、家族として過ごす時間に戻していく。

私は、それも高齢期の住み替えが持つ大きな意味だと思っています。

親の住み替えを考え始めたとき、最初から老人ホームを決める必要はありません。

まず、

今の暮らしを続けられるのか。
何が難しくなっているのか。
家族はどこまで支えられるのか。
そして本人は本当はどう暮らしたいのか。

そこから、一緒に整理してみてください。

住み替えることが答えかもしれません。
住み替えないことが答えかもしれません。

大切なのは、その家族にとって何が一番よいのかを考えることだと、私は思っています。

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事例について

プライバシー保護のため、掲載している事例では年齢・時期・地域・家族構成など一部の情報を変更する場合があります。事例の趣旨、相談内容、支援・判断の経緯については、実際の相談経験をもとにしています。

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「このまま自宅で暮らせるだろうか」
「そろそろ住み替えを考えた方がいいだろうか」
「親は家にいたいと言っているけれど、家族が限界に近い」

そうした段階から、本人の暮らし、ご家族の負担、必要な資金、その後の自宅を一緒に整理します。

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